精神分析と話術(前田重治)

話術では、語り方と、その内容は切っても切れない関係にある。今日の精神分析では、その語り方―相手の心をいかに支えるか、心にいかに響かせるか、心にいかに植え込むか―その口調や、表情など、非言語的な側面が注目されている。「語りは3割が内容、7割が語り口」(中井久夫)
ここでは語り口のほうはさておき、その内容について取り上げる。かつて、話術の達人として有名だった徳川夢声に、「座談十五戒」という教えがあった。ここで、それを精神分析での「介入十五戒」として読みかえしてみよう。
1)一人で喋るなかれ=[喋りすぎるな]―「解釈は4回考え直してみること」(ギャバ―ド)。「解釈」は、相手のイメ―ジを拡げさせるように/ハッとさせるように/感情への直面化をうながすように語る。そしてそのあとの情緒反応や、連想の変化をみる(解釈は、正しいゆえに貴からず)。
2)黙り石となるなかれ=[共感を明示せよ]―主語がなくても日本語はつうじる。「つらいな! 寂しいな! 哀しいな!」は、二人に共有される。
3)反り返るなかれ=[断言より疑問形を]―相手に考えさせるのがねらい。
4)バカ丁寧になるなかれ=[執拗に食い下がるな]
5)お世辞屋たるなかれ=[相手を不安にさせるな]
6)毒舌屋たるなかれ=[相手は超自我転移をおこしやすい]―ここでの、この文章みたいに、「べし、べからず」の言葉はつかうな。
7)コボシ屋たるなかれ、8)自慢屋たるなかれ、9)法螺吹きたるなかれ=[自己表明はほどほどに]―「隠れ身」でない「中立性」を保つように。
10)酢豆腐たるなかれ(知ったかぶりするな)=[わからなければ疑問形で明確化を]―あいまいな、不自然
な、矛盾している、反復される話には、立ち止まれ。
11)賛成居士たるなかれ、12)反対居士たるなかれ=なるべく[中立性を!]
13)浅薄才子たるなかれ=[こざかしくなく、すこしものものしく語れ]―分析者は脇役であると同時に、監督でも
ある。解釈の意味を伝えるだけでなく、ときには相手の心に植え付ける(刻み込む)ような口調で語る
こともある。
14)朴念仁(ぼくねんじん)たるなかれ=[ユ―モアを忘れるな]―相手を惹きつける色気(「花」)も!
15)敬語を忘るるなかれ=[相手を尊重せよ]
○これらの戎めには、ふくみがおおく、また裏(例外)があることにも注意!

【文献】徳川夢声『話術』白揚社、2003